博士のけんきゅうしつ☆TA08その4★

やはり連休前はなにかと忙しないもんじゃな。

じゃがようやくひと段落じゃ。作りかけになっていたマスターグレードモデルでも作ろうか・・・

ん?珍しくちゃんとドアをノックしてくるやつがおるな。

勝手に部屋に入ったりする連中とは違うな。どれ、相手してやるか。

「どなたかな?」

「おお、これはこれは。相変わらず元気そうじゃ。わしとそう変わらん年寄りじゃというのに

いまだに現役のレーサーか。大したもんじゃ。」

「なになに?聞きたいことがある?なんじゃ、あんたほどのベテランでも困ることがあるのか」

は?ユーチューブで見た情報?(笑)

まあ確かに。わしも専門分野でないものを調べるときはついつい気にしてしまうがな。

そういう情報は常に「効果には個人差があります」という殺し文句が付きまとうからな。

専門家が言っていることでも、そうでない人間でも、割と根拠がしっかりしているものもある。

しかし、テレビじゃろうがネットじゃろうが、どうしても視聴者ウケを意識しなければならん。

そこで「若干の」演出要素が入ってしまう。本当は一つの事象に対して膨大な条件が付くはずのものを、

「たったこれだけでこの効果!」と謳ってしまうわけじゃ。

その演出も込みで楽しむならいいんじゃがな・・・

で?暇な時間に何を見たんじゃ?(笑)

ほう、TA08の・・・リヤキャスター?ほーーーーーーう・・・

よし。じいさん同士、コーヒーでも飲みながらじっくり語ろうかの。

 

まず、キャスター角というのはけっこうメジャーな言葉じゃが、意外と複雑なんじゃ。

それがどういった理屈で、どういった効果をもたらすのか。というのをちょっと絵にかくぞ。

 

車で説明するよりバイクや自転車のような2輪車のフロントスポークがわかりやすい。

ん?そうそう、ダンシングライダーもいっしょじゃ(笑)

まず、実際に路面とタイヤが接地している点に注目してほしい。当然、タイヤ中心の真下が

接地の中心じゃな。そして次にスポークの角度をそのまま路面の方に延長し、

路面との交点に注目じゃ。

スポークはタイヤの後に傾いておるから、その延長線はタイヤの接地中心より前に来る。

そのズレのことを「キャスタートレール」という。この絵で青く書いた部分じゃ。

ハンドルを切ったときのタイヤの回転軸と、実際にタイヤが路面に接地している部分をズラしているわけじゃ。

そして、車体が前に進むとき、赤の矢印で書いた力がタイヤに掛かっている。

進行方向と逆向きじゃな。これが後々重要になるから覚えといてくれ。

車体が前に進もうとすると、スポークからの力は、その延長線の向きになる。

つまり、タイヤの接地中心より前に力が掛かる。そうすると、

「そのときタイヤがどんな向きだろうが、勝手に前を向くようになる」っちゅうわけじゃ。

自転車なんかで、ハンドルを持たず、サドルを押せば勝手にまっすぐ走るじゃろ。

あれはキャスター角、キャスタートレールの効果というわけじゃ。

 

つまり、この効果だけに注目するなら、キャスター角が強いほど直進性が良い。

となる。

ほら、あんたも見たことあるじゃろ。でっかいバイクでアメリカ大陸横断とかの映画。

そうそう、そうじゃ。あれに出てくるバイクのキャスター角とか50°くらいあるんじゃないか?(笑)

ひたすらまっすぐ進むならあれがいいじゃろうな。

もちろんデメリットもある。キャスター角が0°なら、ハンドルを切った分だけ舵角がつく。

しかしキャスターを50°にして、どれだけハンドルを切ろうが、タイヤが傾いていくだけで舵角は

いっこうに増えない。 つまり小回りできなくなるということじゃ。

直進安定性を取るか、小回りをとるかという話じゃな。

 

さて、話を車にもどそうかの。

2輪車より3倍くらい複雑になる。

キャスターの話をする前に、これを見てくれ。

 

これは車を正面からみた図じゃ。

ハンドルを切ると、タイヤの接地中心で回っているわけではなく、

ナックルのキングピンの位置(多くのラジコンではフランジパイプがついている位置)を中心に回る。

このズレが「スクラブ半径」じゃ。ちなみにスクラブは「こする」という意味じゃな。

ついでにざっくりと説明すると、スクラブ半径が大きいほど「こする」範囲が大きくなり、

ハンドルが重くなる。その逆は軽くなる。

あくまで、「手動でハンドルをぐるぐる回すときの感覚」じゃがな。

今は実車もパワステがあるし、ラジコンに至ってはそもそもサーボが動かしとるから、

そこは無視してもよい。

無視できないのは、こちらの効果。

 

これは車を上からみた図じゃ。

さっきキャスターのときに説明したタイヤの接地中心に掛かる力が作用すると、

タイヤはキングピンを中心に青の矢印の方向に回されてしまう。

ちなみに、これを打ち消すためにこのような構造にすることもできる。

 

キングピンの位置を上下ずらして角度をつける。「キングピンアングル」というやつじゃ。

そうすると、スクラブ半径を理論上は「ゼロ」にできる。

この構造をもつラジコンカーもあるぞ。舵角の大きくなるドリフトカーなどで見られるな。

まあ、これはこれでメリットもデメリットもあるんじゃが、すべて説明しだすとお互いにもう寝る時間に

なってしまうな(笑)。

まあ少なくとも今話しとるTA08はキングピンアングルなどついとらんから、気にせんでええじゃろ。

 

さて、ここまでタイヤ付近の色々な力の向き、効果をざっくりと話してきた。

すでにキャスター、スクラブ、キングピンアングルの3つ。それに加えて本来なら

みんな大好きなキャンバーもあるな(笑)

じゃが、

一つ一つは実はほとんど「気のせいかな?」くらいの効果しかない。

少なくとも、ラジコンカーの4WDツーリングカーであるTA08ならば、という条件つきじゃが。

フロントまで駆動している時点で効果は薄まる。なにしろそこそこの重さのあるタイヤが

自分で回転しとるわけじゃから、ジャイロ効果も大きい。

さらに決定的なのは、しっかりとした剛性のあるリンケージを力のあるサーボで支持しとるわけじゃ。

その時点で「ハンドルが戻されるとか、引っ張られる」ような効果は体感できない。

そして実際にタイヤの向きが変わったりするわけではないので、走りにも影響が出にくい。

(数センチ単位でガタがあるなら別じゃがな・・・1~2ミリ程度のガタがあっても劇的にはかわらんじゃろな)

 

ひとつ言い忘れとったが、今説明したキャスターの効果は、あくまで加速時と一定走行時の話じゃ。

減速時、逆走時は「まったく逆の効果になる」。

キャスターがたくさんついている車は、減速時は不安定になるということじゃ。

まあそのデメリットもほぼ体感できんがな(笑)

 

その証拠に、一度「逆キャスター」にしてみると面白い。

誰しも一度くらいはCハブを左右逆に組んだことがあるじゃろう?

しばらく気づかずに走ってしまうじゃろ。そんなもんじゃ。

 

さてさて、ここまで話したのはすべて「ハンドルを切るフロント」の話じゃな。

フリーで回転するリヤ駆のフロントタイヤですら、「言われてみればそうかも」程度の効果で、

なおかつハンドルを切ることがないリヤのキャスター角の効果と言われてもな・・・

もちろん、セッティングは無数にある小さな効果の積み重ねじゃ。

大きい風呂おけに一つまみずつ塩を入れていけばいつかしょっぱくなるじゃろ。

じゃが、少なくとも「リヤグリップ向上の特効薬」なはずが無い。

そもそも「どこか変えて劇的に良くなった」ときは、グリップに直接関わる項目・・・

例えばタイヤの銘柄、状態、ボディの空力関連、路面の状況などじゃ。

ほかにはプロポの設定。(ステアリングとスロットルに関する部分)

それ以外の車体、機械的な部分をいじって大きく変わったとするなら、

その直前の設定がきっちり積み重ねられており、あとちょっとで・・・というときじゃ。

ようは色々な要素が煮詰まっとるときじゃな。もしくは路面状況が大きくかわったか・・・

積み重ねられた最後の一手を切り抜いて「これが決め手!効果抜群!」というのは

思い込みか演出じゃろ(笑)

 

ん?そうじゃな、アッカーマンとかもあったな・・・

もう意味不明じゃろ(笑)

とくにここら辺の、可動部分の角度や、仮想の点とかの話はほんと複雑でめんどくさいな。

自分では一か所しか変えてないのに、付随して数か所かわったりするしな(笑)

 

そうそう、あんたが言うようにその辺は取説通りでボディとかウィングとかで変える方が

よほど効率的じゃ。空気は見えないが体感しやすい。

よし、今度来た時にボディのはなしでもしようかの。

うむ、気を付けてな。

まったく熱心なじいさんじゃ。わしも見習わんとな・・・

 

 

※このお話に出てくる人物、団体などはすべてフィクションです。

が、ラジコンに関する理論に関しては覚えておいて損はないかもしれません。

 

 

 

 

 

2023年05月04日