博士のけんきゅうしつ☆TA08その3★
ふう。最近は平和じゃな。あやつも自分でいろいろやっとるようじゃし・・・
うわっ!なんじゃいきなり飛び込んできおって!ノックぐらいせんか!
なんじゃ?なに言っとるかわからん!落ち着け!
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ここで他人にコーヒーを出すのは久しぶりじゃ。
少し落ち着いたか?なに?苦い?わしはブラックしか飲まんからな。
さて、君もTA08をやっとるのか。で、先週来とったあいつに色々聞いたと。
で、バネを柔らかくしろと、で、サスアームの角度を調整しろと。
ふむ。わしが言った通り伝えたわけじゃな?ん?そうじゃ。わしが言ったんじゃ。
ははは、そうか、まるで自分が考えたように言っておったと。まあ別に構わんよ。
そんな細かいことは。人に伝えることで知識から知恵にかわるんじゃろうしな。
(まあ、こんどあやつに会ったときにチクチク言うがな)
で、実際どうなんじゃ?試してみて。
低速コーナーが安定した?でも高速コーナーや切り返しがダメ?で、ベストラップが
遅くなったからダメ? ほう、君もベストラップ信仰者か。まったく。オートラップカウンターの
弊害じゃな。あのな、はっきり言うがベストラップちゅうもんはその時その時で大きく変わるもんじゃ。
それで一喜一憂するのはけっこうじゃが、セッティング途中でのラップデータはあてにならんことも
多い。特に、君のように「そこそこうまく走れる」ドライバーにとってはな。
「コースを速く走る」理屈は単純じゃ。「最短距離を最速で」これ以外無い。
電気のように質量が無ければ、コーナーからコーナーを点で結んだように走れば最速じゃ。
じゃが残念ながらラジコンカーはある程度の質量がある。質量のあるものが動く時には必ず慣性が働く。
急に止まれない、動けない、曲がれないというやつじゃ。その「急な動作」をなるべく可能にするために
タイヤがある。路面との摩擦力(グリップ力)を使ってな。
じゃから、グリップ力を上げれば上げるほど君らの大好きなベストラップは速くなるじゃろう。
質量が無くなっていくのと同じことじゃからな。しかしここで問題になるのは、人間の性能じゃ。
動きの速いものにどこまで対応できるか?ということじゃ。「急な」動きに意識と手の操作が
間に合わなくなる。プロと呼ばれる連中はその部分の精度が高い。したがって車の基本性能・・・
ざっくり言うとグリップ力を高めてより素早い動きが可能な状態じゃな。を上げれば上げるほど
ラップが速くなる。しかし、多くの一般ドライバーは操作できる限界が早めに訪れる。
しかも得意な操作と不得意な操作がある。そうなってくると、車の性能が上がったにも関わらず、
ラップが遅くなるという現象が現れる。そのときの、「操作の限界ラップ」が、ライバルよりも
速ければ悩まんじゃろう。しかし多くの場合は「もっと速く走りたい」じゃろ?
そして、もっとも計算出来ないのは、セッティング途中でドライバーが上手くなってしまう場合じゃ。
そうなってくるとセッティングなど五里霧中じゃ。
ん?五里霧中がわからんか・・・ようするにわけわからんということじゃ。
まあ、そうは言っても上手くなるまで諦めるわけにもいかんわな。
さっき焦っていたのはレースが近いからじゃろう?今、長々と話したラップの出る理由と」出ない理由
を知ることが発展途上のドライバーがマシンをセッティングする上で非常に重要なんじゃ。
己を知り敵を知れば百戦危うからずというやつじゃ。あ、これも説明が必要か・・・
ようするに自分の実力を100%発揮できればそうそう他人に負けないということじゃ。
なにしろ他人は100%発揮できないし、普通の人間どうしでそれほど差がないからな。という意味じゃ。
それでも負けたら、相手が悪かったというやつじゃ。
さて、では君の走行フィーリングをもとに考えると、低速コーナーは安定した。と。
つまり車体自体はグリップ力が改善したと思われる。そして速度のがあがると安定しない。
多くのドライバーが言う「安定しない」とは、「リヤグリップが不足している感じ」で間違いないか?
正解か。おそらくそれを上手くコントロールすることも出来るじゃろうが、そこはこれからの課題として、
車側で補うように考えてみるか。バネが硬かった時にはその症状は現れないはずじゃからな。
ここでバネを硬くするのは堂々巡りじゃな。ようするにバネを柔らかくしてしっかりとロールして
グリップを稼ぎやすくなった。しかし速度が上がると扱いがピーキーになりがちじゃ。なにしろグリップが上がったのは
リヤだけではないからな。フロントも上がっているはずじゃ。
速度が上がると人間の操作は雑になるんじゃ。これは誰でもそうなる。もちろんプロドライバーでも、
多かれ少なかれ、そうなる。
そこでコーナーに突っ込みすぎてしまったり、ハンドルをガバ切りしてしまったりする。
その時に、アンダーステアになってくれれば、人間のミスをごまかせるというわけじゃ。
そういうときに調整するものは、ロールセンターじゃな。
具体的にはフロントのロールセンター高をリヤよりも低くする。そうするとアンダーステアが出やすくなる。
特にコーナーに無理して突っ込んでしまった時ほど良く効く。速度が落ちれば、サスの動きは減り、
舵角分の「曲り」になるというわけじゃ。
なに?理屈が分からんと。よし、簡単なモデルで説明してやろう。
簡単な手抜きの図じゃ。
まずは車を正面から見たところじゃ。ロールセンターが高い設定と低い設定がある。
ロールセンターを中心として、重心位置がまわる。それがロールじゃ。
重心位置はどちらも同じ。
同じ角度だけロールすると、ロールセンターが低い方が重心位置の移動が大きい。
つまり「車体自体が横にたくさん移動する」ということじゃ。さらに、ロールセンターが
重心位置から遠いほど、ロールさせる力も強く、動きづらく、元に戻りにくい。
メトロノームって見たことあるか?そうそう、音楽室にあるやつじゃ。あれと同じ理屈じゃ。
で、これを踏まえてこの3枚の図をみてもらおう。
ロールセンターの高さが、低・中・高の3種類選べる車じゃ。
これは前後とも「中」の設定している。ちなみに前後のロールセンターを結んだ線をロールセンター軸と呼んどる。
右の絵はコーナリング中、特にコーナーに入った瞬間じゃな。
次に、前が「低」後が「高」の車。
というわけじゃ。一目瞭然でアンダーステアじゃろ。
次に、前後の設定を逆にしたもの。
これもみたまんまじゃ。オーバーステアじゃろうな、この車。
ロールセンターを調整するというのは、前後の差を調整するということじゃ。
かなりざっくりとした言い方をするなら、アンダーステアとオーバーステアを調整できる
ということになる。
しかし、あくまで瞬間的な車の動きを決めているだけであって、グリップ力自体は
大きく変わらない。
理屈で言えば、ロールセンターを地中深くに設定してしまえば、あたかも車が傾かずに
水平に移動したかのようなロールも実現できるじゃろう。だが実際にはそんな設定など
難しいじゃろうな。
それに、ドライバーが欲しいのは純粋なグリップ力ではなく「グリップ感」じゃからな。
それなら、車の横移動が少ないという理由で、高いロールセンターの方がグリップする。という
感じがすると思う。
グリップ力は摩擦力。
ロールした時はほぼ外側が沈み、内側が浮く。外側には静止時よりも荷重が乗るが、
内側は減る。その差し引きで、静止時より多くなることは無い。
止まってる時が一番グリップが高いというわけじゃ。
速く動けば動くほど、慣性が働いて垂直荷重が減るんじゃ。
おっ、もうこんな時間か。腹が減ったから君はもう帰ってくれ。
なに?一緒に?いや断る。
ん、ヤバイ?なんじゃ、説明がダメじゃったか? ちがう?いい意味の「ヤバイ」?
ほんとに最近の言葉は意味不明じゃな。
もういいから帰ってくれんか。あー。・・・そうじゃな、この説明はTA08だけのものではないな。
では次に会ったときにTA08のロールセンター調整を教えてやろう。
なにしろ今回の理屈を知っていないと調整しようがないからな。
なに?マジ リスペクト?
まったくもって尊敬しとる感じが伝わってこないな!
はあ、もうマジで帰ってくれ・・・
※この物語はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係がありません。
ただし、ラジコンの理論に関しては信じても良いかも知れません。